起業を決意したとき、最初に直面する重要な選択が「どの会社形態で設立するか」です。日本で設立される会社の9割以上が株式会社または合同会社のいずれかですが、どちらを選ぶべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。本記事では、大阪の行政書士事務所で数多くの会社設立をサポートしてきた経験をもとに、株式会社と合同会社の違いを徹底的に比較します。

会社形態の基礎知識と選択の重要性
会社を設立する前に、まず日本における会社形態の全体像と、株式会社・合同会社が選ばれる理由を理解しておくことが重要です。
日本で設立できる4つの会社形態
現在、日本で新たに設立できる会社の形態は、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4種類です。2006年の会社法改正により、有限会社の新設はできなくなり、代わりに合同会社が新設されました。
このうち、合同会社、合資会社、合名会社の3つを総称して「持分会社」といいます。持分会社の特徴は、所有と経営が一致していることです。つまり、出資者がそのまま経営者となる仕組みになっています。
一方、株式会社は「株式会社」という独立したカテゴリーに分類され、所有と経営が分離しています。株主が会社を所有し、株主総会で選ばれた取締役が経営を行います。
合資会社と合名会社は、無限責任社員を含む会社形態であるため、現在では設立数が極めて少なくなっています。無限責任とは、会社が倒産した場合に個人財産までも債務の支払いに充てなければならないという重い責任です。このリスクの大きさから、現在の起業家のほとんどが株式会社または合同会社を選択しています。
なぜ株式会社と合同会社が主流なのか
株式会社と合同会社が圧倒的に選ばれる最大の理由は、出資者が「有限責任」である点にあります。有限責任とは、万が一会社が倒産して負債を抱えた場合でも、出資者は自分が出資した金額の範囲内でしか責任を負わないというルールです。
例えば、資本金100万円で会社を設立し、事業に失敗して1,000万円の負債が残ったとします。有限責任の場合、出資者は出資した100万円を失うだけで、残りの900万円については個人財産から支払う義務はありません。
ただし、実務上は注意が必要です。金融機関から融資を受ける際、経営者が個人保証を求められることが一般的です。この場合、会社が返済できなくなれば、経営者個人が連帯保証人として返済責任を負うことになります。有限責任の仕組みは会社運営上の責任範囲を示すものであり、融資契約における個人保証とは別の概念であることを理解しておきましょう。
それでも、取引先との通常の取引や、契約上のトラブルなどについては有限責任の原則が適用されるため、起業時のリスクを大幅に軽減できます。この安心感が、株式会社と合同会社が選ばれる大きな理由となっています。
会社形態選択が事業に与える長期的影響
会社形態の選択は、単に設立時の費用だけでなく、将来の事業展開や資金調達、さらには会社の信用度にまで影響を与える重要な決定です。
株式会社を選択すると、将来的に株式を発行して投資家から資金を調達したり、証券取引所に上場したりする道が開けます。一方、合同会社では株式の概念がないため、このような大規模な資金調達方法は利用できません。
また、BtoB(企業間取引)が中心の事業では、取引先企業から「株式会社でなければ取引できない」と言われるケースも存在します。特に保守的な業界や大企業との取引では、株式会社の方が信用を得やすい傾向があります。
逆に、家族経営や少人数での事業運営を前提とし、迅速な意思決定を重視する場合は、合同会社の方が適している場合もあります。外資系企業の日本法人として、Google Japan合同会社やAmazon Japan合同会社など、大手IT企業が合同会社形態を採用している例もあります。
設立費用と維持コストの詳細比較
設立費用
株式会社と合同会社では、設立にかかる費用が大きく異なります。
株式会社
定款認証手数料は、以下の通りです。
- 資本金100万円未満で、発起人全員が自然人、発起人3名以下、発起設立、取締役会非設置の全てを満たす場合:15,000円
- 資本金100万円未満(上記条件を満たさない場合):30,000円
- 資本金100万円以上300万円未満:40,000円
- 資本金300万円以上:50,000円
定款謄本代として、1ページあたり250円程度(認証書を含めて通常2,000円前後)が必要です。
収入印紙代は、書面定款の場合40,000円が必要ですが、電子定款の場合は不要となります。この4万円の差は非常に大きいため、電子定款での設立が一般的になっています。
登録免許税は、資本金の0.7%または150,000円のいずれか高い方となります。
これらを合計すると、電子定款を利用した場合の株式会社設立費用は約202,000円から217,000円程度となります。
合同会社の設立費用
合同会社は定款認証が不要なため、定款認証手数料や定款謄本代はかかりません。これは、合同会社が所有と経営が一致しており、社員(出資者)全員の総意で経営するという形式のため、株式会社ほど厳格な認証手続きが必要ないとされているためです。
収入印紙代は株式会社と同様で、書面定款の場合40,000円、電子定款の場合は不要です。
登録免許税は、資本金の0.7%または60,000円のいずれか高い方となります。
電子定款を利用した場合の合同会社設立費用は約60,000円となり、株式会社と比較して約14万円から16万円程度安く設立できます。
その他行政書士や司法書士に払う報酬費用があります。大体の相場は株式会社設立で10万円前後、合同会社で7万前後です。行政書士は主に定款作成と認証手続きを行い、司法書士は登記申請まで一貫して代行できます。多くの専門家は電子定款に対応しているため、印紙代40,000円が不要になる点を考慮すると、実質的な負担は軽減されます。
自分で設立する場合、法定費用のみで済みますが、書類作成や手続きに多くの時間がかかります。また、書類に不備があると法務局で補正を求められ、何度も足を運ぶ必要が生じることもあります。
起業準備で忙しい時期に、平日の昼間しか開いていない公証役場や法務局に何度も行くのは大きな負担です。時間的コストと金銭的コストを天秤にかけて判断することをおすすめします。
合同会社の方が株式会社より設立費用を抑えられる。
役員の任期と登記費用
株式会社の取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです。ただし、非公開会社(株式の譲渡制限を設けている会社)の場合は、定款で最長10年まで延長できます。
任期が満了すると、同じ人が引き続き取締役を務める場合(重任)でも、変更登記が必要です。登記の際には、登録免許税として資本金1億円以下の会社で10,000円、資本金1億円超の会社で30,000円がかかります。
合同会社には役員の任期という概念がありません。業務執行社員(株式会社の取締役に相当)の任期は無期限のため、重任登記の費用が発生しません。
決算公告
株式会社は、毎年決算公告を行う義務があります。決算公告の方法には、①官報への掲載、②日刊新聞紙への掲載、③電子公告(自社のウェブサイトへの掲載)の3つがあります。
官報への掲載費用は約60,000円から80,000円程度かかります。電子公告であれば費用は抑えられますが、決算公告の調査を公証人に依頼する場合は費用が発生します。実際には決算公告を行っていない株式会社も多いですが、法律上は義務であり、過料の制裁を受ける可能性があります。
合同会社には決算公告の義務がありません。これも年間のコスト削減につながる重要なポイントです。
経営の自由度と意思決定の仕組み
会社の経営において、意思決定のスピードと柔軟性は事業の成否を左右する重要な要素です。株式会社と合同会社では、この点で大きな違いがあります。どちらも有限責任の会社形態ですが違いがあります。
有限責任とは出資者、拠出者(株式会社の場合株主)が、限定された範囲の財産(出資した財産)でのみ責任を負うことを言います。
所有と経営の分離と一致
株式会社
株式会社の最大の特徴は、「所有と経営の分離」です。所有と経営の分離とは会社の所有者は株主ということです。会社の所有者は株主であり、株主は出資比率に応じて議決権を持ちます。株主総会で取締役を選任し、選ばれた取締役が実際の経営を行います。
この仕組みにより、経営の専門家に会社運営を任せることができ、株主は出資だけを行うことも可能です。多数の投資家から資金を集めて大規模な事業を展開する際に適した仕組みといえます。
一方、小規模な株式会社の場合、株主と取締役が同一人物であることも多く、実質的には所有と経営が一致しています。しかし、法律上は株主総会の決議を経る必要があるなど、一定の手続きが求められます。
合同会社
合同会社では、「所有と経営の一致」が原則です。所有と経営が一致=出資者が(社員)が経営者になります。株式会社の株主のように、出資だけを行って経営には関与しないという立場は基本的に想定されていません。
この違いは、外部から純粋な投資目的で資金を調達したい場合に大きな影響を与えます。株式会社であれば、経営には関与しない投資家から資金を集めやすいですが、合同会社では難しくなります。
会社の意思決定は社員で決定するため株式会社よりもスピーディーです。
重要事項の決定方法と所要時間
株式会社では、会社の重要事項を決定するために株主総会を開催する必要があります。株主総会の招集には、原則として会日の2週間前までに招集通知を発する必要があります(非公開会社で取締役会非設置の場合は1週間前)。
議決を要する事項は、普通決議(議決権の過半数の賛成)と特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)に分かれます。特別決議が必要な事項には、定款変更、事業譲渡、合併、解散などが含まれます。
このため、緊急の意思決定が必要な場合でも、最低1週間から2週間の準備期間が必要となります。また、株主が複数いて意見が対立している場合、意思決定に時間がかかったり、決議が成立しなかったりする可能性もあります。
合同会社では、定款で別段の定めをしない限り、業務執行社員の過半数の同意で業務執行の決定を行います。株主総会のような招集手続きは不要で、社員間で合意が得られれば、即座に意思決定を行うことができます。
特に小規模な合同会社で社員が1名または2名の場合、迅速な意思決定が可能です。市場環境の変化に素早く対応したい、スピード重視の経営を行いたいという場合には、合同会社の方が適しています。
ただし、社員全員の同意が必要な事項(定款変更など)については、社員の数が増えると意見調整に時間がかかる可能性があります。
社会的信用度
株式会社
特にBtoB(企業間取引)が中心の事業では、取引先から「株式会社でなければ取引できない」と言われるケースが実際に存在します。大企業や保守的な業界では、取引先の選定基準として「株式会社であること」を明文化している場合もあります。
合同会社
2006年に新設された比較的新しい会社形態のため、まだ十分な認知度があるとはいえません。ただし、前述の通りGoogle Japan合同会社、Amazon Japan合同会社、Apple Japan合同会社など、世界的な大企業の日本法人が合同会社形態を採用している例も増えています。
外資系企業が合同会社を選ぶ理由は、米国のLLC(Limited Liability Company)に近い仕組みであることや、意思決定のスピードが速いこと、設立・維持コストが安いことなどが挙げられます。
会社設立を行政書士に依頼するメリット
① 許認可申請を見据えた目的設計
行政書士は、建設業許可、飲食店許可、在留資格申請など、あらゆる許認可や申請手続きのスペシャリストです。前述したように、労働者派遣事業や宅建業などは、特定の文言が定款に入っていないだけで申請が門前払いされてしまいます。 行政書士に依頼すれば、あなたが取得したい許認可に必要な「正解のワード」を正確に盛り込みます。これにより、設立後に「目的変更登記(登録免許税3万円)」をやり直すという、時間と費用の無駄を完全に防ぐことができます。
② 電子定款による「4万円のコストカット」
自分自身で紙の定款を作成すると、収入印紙代として4万円が必要です。しかし、行政書士は専用の機材と電子署名を用いた「電子定款」に対応しています。 行政書士に依頼することで、この印紙代4万円が不要になります。多くの事務所では、この浮いた4万円を報酬の一部に充てることができるため、実質的なコスト負担を抑えながら、プロのチェックを受けられるという大きなメリットがあります。
③本業に集中するための「時間」と「精神的余裕」の確保
会社設立期は、営業準備や備品調達、人材採用など、経営者がやるべきことは山積みです。慣れない法務局や公証役場とのやり取り、間違いが許されない書類作成に数日間を費やすのは、経営判断として大きな機会損失です。 煩雑な手続きを丸投げすることで、初日から社長としての本来の業務に100%の力を注ぐことができます。
まとめ
株式会社と合同会社、それぞれに明確な特徴とメリット・デメリットがあります。どちらが優れているということではなく、あなたの事業計画や将来のビジョンに合わせて選択することが重要です。
株式会社を選ぶべき主なケース
- 将来的に事業を大きく拡大し、従業員を多数雇用する計画がある
- ベンチャーキャピタルからの出資や株式上場を視野に入れている
- 大企業や官公庁との取引が中心となる事業を行う
- 建設業や不動産業など、社会的信用度が特に重視される業種
- 初期投資額が大きく、外部からの資金調達が不可欠
合同会社を選ぶべき主なケース
- 設立費用や維持コストを抑えたい
- 少人数で迅速な意思決定を重視する経営を行いたい
- 家族経営や仲間同士での起業を予定している
- 一般消費者向けの事業で、会社形態が取引に影響しない
- 外資系企業の日本法人として柔軟な経営体制を構築したい
なお、合同会社として設立した後、事業が軌道に乗って株式会社への組織変更が必要になった場合でも、法律上は可能です。ただし、手続きには費用と時間がかかるため、可能であれば最初から適切な形態を選択することをおすすめします。

