不動産業を開業する際には、様々な要件をクリアする必要がありますが、その中でも「政令使用人」の配置は、複数の営業所を持つ場合や代表者が他社で常勤している場合に必須となる重要な要素です。
この記事では、大阪府の行政書士事務所での実務経験を踏まえ、政令使用人に関する要件や手続きについて、詳しく解説いたします。

政令使用人とは?
政令使用人の法的定義と役割
政令使用人(使用人)とは宅地建物取引業法施行令第2条の2で定められた使用人です。事務所の代表者で契約締結権限を有する者で支店長や営業所長が該当します。この制度は、代表者が常勤できない営業所においても、適切な業務運営を確保するために設けられています。
具体的には、支店長や営業所長といった役職の方が該当し、その営業所において契約締結権限を持つポジションです。つまり、代表者に代わって不動産取引における重要な意思決定を行う責任者としての役割を担います。
なぜ政令使用人が必要なのか
宅建業では、消費者保護の観点から、各営業所に契約締結権限を持つ責任者の常勤が義務付けられています。代表者が全ての営業所に常勤することは物理的に不可能なため、代表者が常勤できない営業所には政令使用人を配置することで、この要件を満たすことになります。
この仕組みにより、どの営業所でお客様が取引をされる場合でも、適切な責任体制のもとで安心して不動産取引ができる環境が整備されているのです。
政令使用人と専任の宅地建物取引士との違い
政令使用人は契約締結権限を持つ営業所の責任者であり、宅地建物取引士の資格は必須ではありません。一方、専任の宅地建物取引士は、重要事項の説明や書面への記名押印など、法律で定められた専門的な業務を行う資格者です。
ただし、一人の人物が両方の役割を兼任することは可能です。実務上、政令使用人が宅地建物取引士の資格も持っているケースは多く見られます。
政令使用人の資格要件と欠格事由
政令使用人になるための基本要件
政令使用人になるために、特別な資格は必要ありません。会社の従業員であれば、正社員でなくても構いませんが、営業所に常勤していることが求められます。
また、代表者以外の役員や専任の宅地建物取引士が兼任することも可能です。ただし、他社で常勤している方や、建設業許可の経営業務管理責任者・専任技術者として常勤性が求められている方は、原則として兼任できません。
宅地建物取引業法第5条の欠格要件について
政令使用人には、代表者や法人役員と同様に、宅地建物取引業法第5条に定められた欠格要件があります。以下のいずれかに該当する場合、政令使用人になることができず、該当者が政令使用人として就任している場合は免許取消の対象となります。
主な欠格要件:
- 破産者で復権を得ていない者
- 宅建業法違反等により免許を取り消され、その取消しの日から5年を経過していない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、刑の執行を終わって5年を経過していない者(執行猶予期間中も該当)
- 特定の犯罪により罰金刑に処せられ、刑の執行を終わって5年を経過していない者
- 宅地建物取引業法違反
- 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律違反
- 刑法第204条(傷害)、第206条(現場助勢)、第208条(暴行)、第208条の2(凶器準備集合)、第222条(脅迫)、第247条(背任)の罪
- 暴力行為等処罰に関する法律違反
- 暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過していない者
- 免許申請前5年以内に宅建業に関し不正または著しく不当な行為をした者
- 宅建業に関し不正または不誠実な行為をするおそれが明らかな者
- 心身の故障により宅地建物取引業を適正に営むことができない者
欠格要件に該当した場合のリスク
もし政令使用人が欠格要件に該当することが判明した場合、会社全体の宅建業免許に重大な影響を及ぼします。
- 新規申請の場合:申請が受理されない、または免許が下りない
- 既に免許を取得している場合:免許取消処分の対象となる可能性がある
政令使用人の設置が必要なケース
代表者が他社で常勤している場合
代表者が別の会社で常勤として勤務している場合、宅建業を営む会社では常勤と認められません。この場合、宅建業を営む会社の本店に政令使用人を配置する必要があります。代表者が常勤する事務所には、政令使用人は不要ですが、設置しても問題はありません。
ただし、同一建物内で複数の会社の代表を兼ねている場合のみ、申立書を提出することで特例が認められることがあります。
実務上の注意点:
- 他社での勤務状況を証明する書類(在籍証明書等)が必要になる場合がある
- 社会保険の加入状況から常勤先が判明するため、虚偽の申告はできない
- 代表権の行使について、社内規則や個別委任により委任関係を明確にしておく必要がある
複数の営業所を設置する場合
本店に加えて支店を開設する場合、代表者は一つの営業所にしか常勤できないため、代表者が常勤しない営業所には必ず政令使用人の配置が必要です。
具体例:
ケース1:本店のみで営業、代表者が他社で常勤
- 本店:政令使用人の設置が必要
- 理由:代表者が他社で常勤のため、本店に常勤できない
ケース2:本店と支店2か所で営業
- 本店:代表者が常勤(政令使用人は不要だが設置してもよい)
- 支店A:政令使用人の設置が必要
- 支店B:政令使用人の設置が必要
- 理由:代表者は本店にのみ常勤できるため
ケース3:本店と支店1か所、代表者が他社で常勤
- 本店:政令使用人の設置が必要
- 支店:政令使用人の設置が必要
- 理由:代表者がどちらの営業所にも常勤できないため
営業所の定義と要件
政令使用人が必要となる「営業所」とは、宅建業法上の定義を満たす継続的に業務を行う施設のことを指します。
営業所の要件:
- 物理的に独立した施設であること
- 継続的に業務を行うことができる設備があること
- 外部から見てその場所が営業所であることが分かること(看板・表札等)
- 専任の宅地建物取引士が所定の人数配置されていること(従業者5名に1名以上)
単なる案内所や一時的な展示場は営業所には該当せず、政令使用人の配置は不要です。
政令使用人設置の具体的な手続きと必要書類
新規免許申請時の手続き
新規に宅建業免許を申請する段階で政令使用人が必要な場合は、免許申請書類の中に政令使用人に関する情報を記載します。
申請書類における記載箇所:
宅地建物取引業免許申請書の第三面に「政令第2条の2に関する使用人」という記載欄があり、ここに氏名、生年月日、宅建士の登録番号(該当する場合)などを記入します。
変更届出が必要な場合と期限
免許取得後に政令使用人を新たに設置する場合や、既存の政令使用人に変更が生じた場合は、変更日から30日以内に都道府県知事に届出が必要です。
変更届が必要なケース:
- 新たに支店を開設し、政令使用人を配置した場合
- 代表者が他社での常勤を開始し、政令使用人を配置することになった場合
- 既存の政令使用人が退任し、新しい政令使用人が就任した場合
- 政令使用人の氏名が変更になった場合
必要書類の詳細と取得方法
必要書類一覧
変更届出書(第一面、第三面)
略歴書
代表者等の連絡先に関する調書
身分証明書(本籍地で取得できます)
登記されていないことの証明書(法務局で取得できます)
宅地建物取引業に従事する者の名簿
政令使用人の設置または変更に関する届出には、以下の書類が必要です。
1. 変更届出書(第一面、第三面)
- 大阪府のホームページからダウンロード可能
- 正本1部、副本1部の計2部を提出
- 令和7年4月1日以降、様式が変更されているため最新版を使用すること
2. 略歴書
- 政令使用人個人の過去の職歴を記載
- 欠格要件に該当していないことの確認資料となる
3. 代表者等の連絡先に関する調書
- 政令使用人の連絡先等を記載
4. 身分証明書
- 政令使用人の本籍地の市区町村役場で取得
- 禁治産者・準禁治産者(成年被後見人・被保佐人)に該当しないことの証明
- 破産者で復権を得ていないことの証明
- 申請日前3か月以内に発行されたもの
5. 登記されていないことの証明書
- 法務局(東京法務局後見登録課または全国の法務局本局)で取得
- 成年被後見人および被保佐人に該当しないことの証明
- 申請日前3か月以内に発行されたもの
- オンライン申請または郵送申請も可能
6. 宅地建物取引業に従事する者の名簿
- 営業所に所属する全従業員の名簿
- 政令使用人もこの名簿に記載される
よくある質問とトラブル回避のポイント
政令使用人に関するよくある質問
Q1:政令使用人は宅地建物取引士の資格が必要ですか?
A:いいえ、必須ではありません。ただし、営業所には従業員5名に1名以上の専任の宅地建物取引士の配置が必要です。政令使用人が宅建士資格を持っている場合、兼任することで人員の効率的な配置が可能になります。
Q2:一人の人物が複数の営業所で政令使用人を兼任できますか?
A:いいえ、できません。政令使用人はその営業所に常勤することが要件のため、複数の営業所での兼任は認められません。
Q3:代表者が常勤する営業所にも政令使用人を置く必要がありますか?
A:代表者が常勤する営業所には政令使用人の設置義務はありません。ただし、設置することは可能であり、将来的な体制変更に備えて配置しておくケースもあります。
Q4:政令使用人が退職した場合、どうすればよいですか?
A:速やかに新しい政令使用人を選任し、変更日から30日以内に変更届を提出する必要があります。政令使用人不在の期間が長引くと、免許取消の対象となる可能性があります。
Q5:建設業許可の経営業務管理責任者が宅建業の政令使用人を兼任できますか?
A:原則として兼務することはできません。ただし、同一法人で同一場所で勤務する場合に限り、他の兼業の業務量を考慮した上で兼務を認めることがあります。大阪府の判断が必要なため、事前に相談することをお勧めします。
実務上のトラブル事例と回避策
事例1:政令使用人の常勤性が認められないケース
- 問題:政令使用人として届出た従業員が、実際には他社でも勤務していた
- 結果:常勤性が認められず、変更届の修正や場合によっては行政処分の対象に
- 回避策:社会保険の加入状況、出勤記録などで常勤の事実を明確にしておく
事例2:欠格要件の見落とし
- 問題:過去の罰金刑について確認が不十分で、欠格要件に該当する人物を政令使用人として届出
- 結果:審査で判明し、免許が下りない、または免許取消の対象に
- 回避策:略歴書の作成時に本人に十分な聞き取りを行い、身分証明書等で確実に確認
事例3:変更届の提出期限超過
- 問題:政令使用人の交代があったが、30日以内の届出を怠った
- 結果:業法違反として指導や罰則の対象となる可能性
- 回避策:人事異動の予定がある場合は、事前に変更届の準備を進めておく
専門家に相談すべきケース
以下のようなケースでは、行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。
- 複雑な企業体制の場合
- 代表者が複数の会社を経営している
- グループ会社間で人材の兼任を検討している
- 過去に何らかの処分を受けたことがある場合
- 欠格要件に該当する可能性があるかどうかの判断
- 復権や5年経過の計算が必要な場合
- 建設業など他の許認可と併せて営業する場合
- 兼業による制約の確認
- 人員配置の最適化
- 迅速な手続きが必要な場合
- 短期間での免許取得を目指している
- 書類不備による審査遅延を避けたい
大阪府では、免許申請の標準処理期間は書類受付後5週間とされています。スムーズな手続きのために、事前準備と正確な書類作成が重要です。
宅建業許可申請を行政書士に依頼するメリット
1. 「時間」という最大の経営資源を確保できる
起業前後において、経営者にとって最も貴重なリソースは時間です。
宅建業の免許申請には、膨大な書類の準備が必要です。
- 身分証明書や登記されていないことの証明書の取得
- 事務所の形態を証明する写真や図面
- 略歴書や誓約書
- 納税証明書や決算書の整理
これらを不慣れな方が一から調べ、役所を回り、不備なく揃えるには、かなりの時間を要するとので、行政書士に依頼すれば、経営者の作業は「押印」と「数点の書類用意」だけに絞られます。
2. 事務所要件の「事前判定」で手戻りを防ぐ
- 「自宅兼事務所でも大丈夫か?」
- 「他の会社と相部屋(シェアオフィス)だけど許可は下りるか?」
- 「入り口から他の会社を通らずに自社スペースに行けるか?」
これらは自治体ごとに非常に細かい基準があり、もし基準を満たさずに賃貸契約を結んでしまうと、せっかく借りたのに免許が下りないという最悪の事態になりかねません。
行政書士は、契約前の段階で現地の写真や図面を確認し、保健所や土木事務所の審査基準に適合するかをプロの目で判定します。これにより、無駄な家賃の支払いや改装費用の発生を未然に防ぐことができます。
3. 保証協会への入会手続きもワンストップ
宅建業を開始するには、免許の通知が届くだけでは不十分です。営業保証金(1,000万円以上)を供託するか、保証協会(ハトマーク・ウサギマーク)に入会して分担金を納める必要があります。
多くの業者が後者の保証協会を選びますが、この入会手続きがまた煩雑です。
- 免許申請と並行して進めるスケジュール管理
- 保証協会独自の必要書類の作成
- 面接日程の調整
行政書士は、免許申請とセットでこれらの手続きを代行します。「免許は下りたのに、保証協会の手続きが遅れて営業開始できない」という空白期間を作らせない、最短ルートのスケジュール管理が可能です。
4. 専任の宅建士や欠格事由の法的チェック
- 役員に過去の不祥事がないか
- 専任の宅建士が他の会社で登録されたままになっていないか
- 常勤性の証明に不足はないか
もし虚偽や不備があると、免許が下りないだけでなく、最悪の場合は虚偽記載として重いペナルティを受けるリスクもあります。行政書士は法的な観点からこれらを事前にチェックし、クリーンな状態で申請を遂行します。
5. 5年後の更新、変更届のフォロー体制
- 5年ごとの更新申請(忘れると免許失効・無免許営業に!)
- 役員の変更、事務所の移転、専任の宅建士の交代時の変更届(30日以内など期限あり)
これらが発生するたびに一から手続きを調べるのは非効率です。一度行政書士に依頼しておけば、自社の履歴を把握している「法務のパートナー」として、期限管理や迅速な届出を任せることができます。
まとめ
政令使用人は、宅建業免許を取得し、適切に営業を行う上で欠かせない重要な役割を担っています。特に以下のポイントを押さえておきましょう。
重要ポイント:
- 設置義務の理解
- 代表者が常勤できない営業所には必ず政令使用人が必要
- 支店展開時には各支店に配置が必要
- 欠格要件の徹底確認
- 宅地建物取引業法第5条の欠格要件に該当していないことを確認
- 身分証明書と登記されていないことの証明書で客観的に証明
- 適切な権限委任
- 契約締結権限を持つ責任者としての位置づけ
- 社内規則で権限を明確化
- 変更時の迅速な対応
- 変更日から30日以内の届出厳守
- 必要書類を事前に準備しておく
- 常勤性の確保
- 社会保険の加入や出勤記録で証明できるようにしておく
- 他社との兼務は原則不可
政令使用人の制度を正しく理解し、適切に対応することで、円滑な宅建業の開業と運営が可能になります。不明な点がある場合は、大阪府建築振興課や専門の行政書士に相談することをお勧めします。

